過敏性腸症候群(IBS)の症状が長く続くと、「もしかして、ただの腹痛じゃなくて、もっと重い病気なのでは…」「がんの心配はないのだろうか」と不安になることはありませんか?この辛さが一生続くのかと絶望したり(参考:IBSは治らない?消化器専門医が教える絶望しないための全知識)、裏に何か隠れた病気があるのではないかと心配したりするのは、当然の気持ちですよね。
A. 結論から言えば、IBSが直接的な原因となって大腸がんなどの重い病気につながることは、正確に診断されていればありません。
結論から言えば、過敏性腸症候群(IBS)が直接的な原因となって大腸がんなどの重い病気につながることは、正確に診断されていればありません。IBSは、器質的な病変がないにもかかわらず、お腹の症状が慢性的に続く機能性の病気だからです。
IBSとがんの関係についての解説
IBSという病気は、国際的な診断基準であるRome Ⅳ(ローマフォー)基準に基づいて診断されます(参考:【医師監修】IBSセルフチェック|下痢・便秘・混合型のタイプを診断)。この診断基準は、「通常行われる検査で検出されるような、大腸がんや炎症性腸疾患などの器質的な消化器病が原因ではない」ということを前提としています。つまり、医学的には、IBSと診断された時点で、すでにがんなどの重篤な病気は除外されている、という位置づけなのです。
私の臨床経験上、多くの患者さんがこの点で不安を抱えていらっしゃいます。では、なぜ「IBSとがんは関係ない」と言われても、心配になる方がいらっしゃるのでしょうか?
その理由の一つに、「IBSの診断初期には、がんなどの器質的疾患が十分に見分けられていないケースが含まれている可能性がある」という報告があるためです。実際に、ある研究では、IBSと診断された患者さんのうち、診断から最初の3ヶ月間で大腸がんが発見される割合が一時的に高いというデータも示されています。これは、IBSの症状が、がんなどの重篤な病気の症状と似ている場合があるため、診断の初期段階で慎重に鑑別する必要があることを示唆しています。
しかし、これは「IBSががんを引き起こす」という意味ではありません。正しくIBSと診断された場合は、その後、大腸がんのリスクが高まることはないとされています。
消化器内科医として、まず皆さんに知っておいてほしいことは、IBSと診断される際には、通常、以下の点が確認されるということです。
- 警告症状・徴候の有無:発熱、関節痛、血便、原因不明の体重減少(6ヶ月以内に3kg以上)、腹部のしこり、直腸診での異常所見、血液の付着などがある場合は、より詳細な検査が必要となります(参考:IBSの検査では何をするの?費用や期間、大腸カメラは必要なのかを解説)。
- 危険因子の有無:50歳以上で症状が始まった方、大腸の器質的疾患の既往歴や家族歴がある方も、精密検査が検討されます。
- 一般的な臨床検査での異常の有無:血液検査(血糖値を含む)、血球数、炎症反応、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、尿検査、便潜血検査、腹部X線写真などの結果が確認されます。特に、便潜血陽性、貧血、低タンパク血症、炎症反応陽性などが見られる場合は、大腸内視鏡検査が推奨されます。
これらの項目に一つでも当てはまる場合は、大腸内視鏡検査(または大腸造影検査)を行うことが推奨されています。IBSの診断は、これらの警告症状や危険因子、通常の検査で異常がない場合に初めて下されるものなのです。
不安を感じているあなたが取るべき行動
ご自身のIBSが重篤な病気に繋がるのではないかと不安を感じているあなたへ、具体的な心構えと行動についてお伝えします。
- 診断時の確認: IBSと診断された際に、医師からがんなどの器質的疾患が除外されていることを明確に説明を受けましたか?もし疑問があれば、再度医師に確認してみましょう。
- 症状の変化に注意: IBSと診断された後も、万が一、上記で説明したような警告症状(特に血便、原因不明の体重減少、発熱など)が出現した場合は、ためらわずに速やかに医療機関を受診してください。これはIBSの症状悪化ではなく、別の病気が発生した可能性を考慮するためです。
- 定期的な経過観察と検査: 消化器内科医の立場から申し上げると、IBSの診断後も定期的な経過観察は非常に重要です。特に診断から最初の3年間は、必要に応じて便潜血検査や血液検査などの臨床検査を適宜実施し、経過を注意深く見守ることが推奨されています。これにより、万が一、初期診断で見逃された器質的疾患があったとしても、早期に発見できる可能性が高まります。
- 医師との良好な関係を築く: 症状や不安な気持ちを包み隠せず話せる、信頼できる医師を見つけることが大切です。良好な患者ー医師関係は、治療効果を高め、あなたの不安を和らげる上で非常に大きな役割を果たします(参考:良いお医者さん・クリニックの見分け方 5つのチェックポイント)。
まとめ:IBSとがんの関係
- IBSそのものが大腸がんなどの重い病気の原因になることはありません。
- IBSの診断は、大腸がんなどの器質的疾患が除外された上で行われます。
- 診断初期にIBSと似た症状を持つ他の病気(がんなど)が見つかるケースがあるため、警告症状や危険因子がある場合は精密検査が重要です。
- IBSと診断された後も、症状の変化(特に警告症状の出現)には注意し、必要に応じて定期的な検査を受けることをおすすめします。
不安な気持ちは抱え込まず、専門医に相談し、ともに症状を管理していきましょう。症状がコントロールされ、安心して日々を過ごせるよう、私たちがサポートします。
