お腹の不調、特にIBS(過敏性腸症候群)でお悩みのあなたへ。
突然の腹痛や下痢、便秘、お腹の張りといった、人には言いづらい症状に悩まされ、
「一体、何科に行けばいいのだろう?」
「病院選びで失敗したくない」
「ちゃんと話を聞いてくれる先生はいるのだろうか?」
と、不安な日々を送っていませんか?
IBSの症状は日常生活に大きな影響を及ぼし、仕事や学業、プライベートにおけるQOL(生活の質)を著しく低下させることがあります。実際に、IBSの患者さんのQOLは大幅に低下するという報告もあるほどです。そして、中には「もしかしたら大腸がんのような重篤な病気ではないか」と、漠然とした不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、IBS治療における「最初に取るべき対策」と、症状を長期的に安定させるための「根本的な対策」について、消化器内科医である私の視点から詳しく解説します。この記事を読めば、あなたの不安が和らぎ、ご自身に合った病院選びができるようになるはずです。
最初に選ぶべきは「消化器内科」です

「ストレスも関係するなら、心療内科?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、IBSの治療を始める上で、まず受診すべきは消化器内科です。その理由は、適切な治療を進める上で最も重要な「最初のステップ」を確実に行えるからです。
IBSの本当の原因と診断の重要性
IBSは、単なる「気の持ちよう」や「ストレスだけの病気」ではありません。医学的には、脳と腸が互いに影響を及ぼし合う関係(脳腸相関(のうちょうそうかん))が深く関わる疾患だと考えられています。
その病態には、腸内細菌のバランスの乱れ、消化管の運動異常、内臓の知覚過敏、そしてストレスなどの心理社会的因子が複雑に絡み合っています。
消化器内科医として、まず皆さんに知っておいてほしいことがあります。それは、IBSと診断するためには、まず大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)といった、命に関わる他の病気がないことを確認(除外診断)するのが不可欠だという点です。なぜなら、症状だけではIBSと区別が難しい病気も存在するからです。
失敗しない病院選びと治療への3ステップ

では、具体的にどのように病院を選び、治療を進めていけばよいのでしょうか。ステップに沿って解説します。
ステップ1:まずは消化器内科で正確な診断を受ける
IBSのような症状を感じたら、ためらわずに消化器内科を受診してください。私の臨床経験上、IBSの診療で最も重要なのは、その症状が本当にIBSによるものか、それとも他の病気が隠れていないかを正確に見極めることです。
【消化器内科を選ぶべき理由】
- 重篤な病気(器質的疾患)を確実に見分けるため
IBSの診断は、「通常検査で体に形として現れる異常(器質的疾患)がない」という前提で行われます。そのため消化器内科では、問診で以下のような「警告症状」や「危険因子」がないかを確認し、必要に応じて精密検査を行います。
・警告症状: 発熱、関節痛、血便、原因不明の体重減少など
・危険因子: 50歳以上での発症、大腸がんなどの家族歴
必要と判断されれば、血液検査や便検査、そして大腸内視鏡検査などを行い、他の病気の可能性を丁寧に取り除いていきます。 - IBSのタイプに合わせた専門的な治療を受けるため
他の病気がないと確認できた後、国際的な診断基準(Rome IV基準)に基づき、あなたのIBSがどのタイプ(便秘型、下痢型、混合型など)かを診断します。
消化器内科では、このタイプに応じて、食事・生活習慣の指導から、消化管の動きを調整する薬、プロバイオティクス、各種専門薬まで、消化器に特化した幅広い選択肢から最適な治療法を提案できます。
【受診前の準備と良い医師を見つけるポイント】
- 受診前の準備
・症状の記録: いつ、どんな症状が、どのくらいの強さで出るか、便の状態などをメモしておきましょう。
・情報の整理: 既往歴、服用中の薬、聞きたいことをリストアップしておくと診察がスムーズです。 - 良い医師を見つけるポイント
・話を丁寧に聞いてくれる: 良好な信頼関係は治療効果にも影響します。
・検査の説明が分かりやすい: なぜその検査が必要なのかを丁寧に説明してくれる医師を選びましょう。
・心理面にも配慮がある: ストレスなど心理的な側面にも理解を示してくれる医師が理想です。
・他科との連携体制がある: 必要に応じて心療内科などへ適切に紹介できる医師は信頼できます。
ステップ2:消化器内科での治療(薬物療法・生活習慣改善)
消化器内科での初期治療は、食事指導や生活習慣の改善が基本となります。その上で、あなたの症状やIBSのタイプに合わせた薬物療法を行います。
しかし、これらの治療で改善が不十分な場合、症状に心理的要因が強く関与している可能性を考え、抗うつ薬や抗不安薬の使用を検討することもあります。消化器内科医として、私は常に患者さんの心理的側面にも注意を払っています。
ステップ3:必要に応じた心療内科・精神科との連携
消化器内科での治療でも改善が難しい難治性のIBSで、特に心理的な要因が強いと判断される場合は、心療内科や精神科での専門的な心理療法(認知行動療法など)が有効なことがあります。
このように、IBSの治療は消化器内科が中心となり、必要に応じて心療内科や精神科と連携しながら進めるのが、最も効果的なアプローチと言えます。
##これだけは避けて!IBS治療のNG行動
1. 自己判断での治療中断: 症状には波があります。良くなったと感じても、自己判断で薬をやめず、必ず医師に相談してください。
2. 科学的根拠のない情報に頼る: 多くの患者さんが誤解されていますが、IBSは単なる「気の持ちよう」で治る病気ではありません。根拠の乏しい民間療法に頼るのではなく、医師と共に科学的根拠に基づいた治療を進めましょう。
3. 一人で抱え込む: IBSのつらさは、経験した人にしか分かりません。一人で悩まず、専門家である医師に相談することが、改善への第一歩です。
まとめ:一人で悩まず、まずは消化器内科へ

IBSは、つらい症状を伴いますが、適切な診断と治療で改善が期待できる疾患です。
最優先は、消化器内科で重篤な病気がないかを確認すること。消化器内科で、ご自身のIBSのタイプに合った治療を受けましょう。
心理的な要因が強い場合は、心療内科などとの連携も有効です。
信頼できる医師と二人三脚で治療を進めることが成功の鍵です。
この記事が、あなたの病院選びの助けとなり、症状改善への一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。症状が改善し、あなたがより快適な毎日を送れるよう、私たち消化器内科医も全力でサポートします。