「会社の飲み会、友達との食事会…お腹の調子が心配で、せっかくの誘いも楽しめない…」
過敏性腸症候群(IBS)を抱えているあなたにとって、飲み会や会食は大きな悩みの種ですよね。急な腹痛や下痢、便秘、お腹の張りといった症状がいつ出るか分からず、不安を感じるのは当然のことです。しかし、少しの工夫と知識があれば、こうした社交の場でも安心して食事やお酒を楽しむことができます。
この記事では、消化器内科医である私が、IBSの症状を悪化させないための「即効性のある対策」と、日頃から取り組める「根本的な予防法」について、具体的なお酒の飲み方やおつまみの選び方を含めて詳しく解説します。
結論:飲み会で最も簡単で効果的な対策は「アルコールの種類と量、そしておつまみの選び方」です
まず、最もシンプルで効果が期待できるのは、お酒の種類と量に注意し、刺激の少ないおつまみを選ぶことです。特にアルコールは、大量に摂取すると下痢症状を悪化させる可能性があると報告されています。また、脂質の多い食事や香辛料を多く含む食品、カフェイン類、ミルクや乳製品はIBS症状を誘発しやすいとされています。これらの要素を意識するだけでも、飲み会での不調リスクは大きく軽減できます。
原因解説:なぜ飲み会でIBSが悪化しやすいのか?
IBSは、器質的な異常がないにも関わらず、腹痛と便通異常が慢性的に続く機能性消化管疾患です。その病態には、ゲノム、脳腸ペプチド、消化管運動異常、内臓知覚過敏、消化管免疫、粘膜透過性、腸内細菌、心理社会的因子などが複雑に関与しており、これらを総合的に「脳腸相関(のうちょうそうかん)」という概念で捉えることが重要だと考えられています。
特に、ストレスはIBSの病態に深く関与しており、消化器症状を増悪させる現象として現れることが臨床的にも心理計量学的にも証明されています。飲み会や会食の場は、楽しい反面、人間関係や場の雰囲気から心理的なストレスを感じやすい環境でもあります。このストレスが脳腸相関を介して消化管に影響を与え、症状を誘発することが考えられます。
また、特定の食べ物や飲み物が症状を引き起こすことも知られています。脂質の多い食事はIBS症状を増悪させ、カフェイン類は大腸の運動を刺激して症状を悪化させる可能性があります。香辛料(赤唐辛子など)も消化管運動を亢進させ、腹部の灼熱感や痛みにつながるとされています。さらに、乳糖不耐症のあるIBS患者さんの場合、ミルクや乳製品の摂取で下痢が誘発されることもあります。これらの要因が複合的に作用し、飲み会での症状悪化につながることが考えられます。
具体的な方法:状況別にIBS対策
1. 今すぐできる応急処置(飲み会中に症状が出た場合)
もし飲み会中に残念ながら症状が出てしまった場合、まずは焦らず、冷静に対処することが大切です。
- トイレの場所を確認しておく:事前に把握しておくだけで、いざという時の心理的負担が軽減されます。
- 症状を悪化させるものを摂取しない:これ以上、刺激となるアルコールや食べ物を摂取するのは控えましょう。
- リラックスを心がける:ストレスが症状を悪化させるため、深呼吸をする、少し席を立つなどして気分転換を図りましょう。
- かかりつけ医に相談し、頓服薬を準備しておく:私自身の臨床経験上、IBSの患者さんには症状に応じた頓服薬を処方することがよくあります。下痢症状が優勢な場合はロペラミド塩酸塩などの止痢薬、腹痛が中心の場合はチキジウム臭化物などの抗コリン薬が症状を和らげる可能性があります。(参考:IBSで処方される代表的な薬の種類と効果、副作用まとめ)ただし、止痢薬は過度の使用で心疾患の有害事象が報告されているため、抗コリン薬も口渇や便秘などの副作用に注意が必要です。これらはあくまで頓服として、医師の指示に従って使用してください。
2. 事前にできる準備(飲み会前日〜直前)
飲み会当日の不安を軽減するためには、事前の準備が非常に重要です。
- 主治医に相談し、必要に応じて薬剤調整を行う:飲み会の予定があることを事前に医師に伝え、症状コントロールのための薬の服用タイミングや種類について相談しておきましょう。例えば、IBS-D(下痢型IBS)の方であれば、5-HT3拮抗薬のラモセトロンが腹痛や便通異常の改善に有用であることが示されています。また、消化管運動機能調節薬であるマレイン酸トリメブチンは、IBSの腹痛、下痢、便秘に効果を示すとされています。
- プロバイオティクスを普段から摂取する:プロバイオティクスはIBSに対して有用であり、腸内細菌のバランスを改善することで有益な作用をもたらします。(参考:【専門家が解説】IBSの改善が期待できるプロバイオティクスサプリの選び方とおすすめ5選)日頃からの摂取が、飲み会での不調予防にもつながる可能性があります。
- 無理のない参加を心がける:体調がすぐれない場合は、無理に参加せず、欠席や早退を選択する勇気も大切です。
3. 日常でできる根本対策(普段から取り組むこと)
飲み会対策だけでなく、日頃からの生活習慣や食事の改善がIBSの根本的な症状改善につながります。
食事内容の見直し
- 脂質、カフェイン、香辛料の摂取を控える:これらはIBS症状を誘発しやすい食品として挙げられています。
- 規則的な食事摂取と十分な水分補給:カフェインを含めない水分を十分に摂ることが推奨されます。
- 低FODMAP食:欧米では短鎖炭水化物(FODMAP)を多く含む食事を避けることがIBS症状を抑えると報告されています。(参考:【初心者向け】低FODMAP(フォドマップ)食事法とは?やり方を3ステップで解説)小麦、玉ねぎ、リンゴ、牛乳などが該当しますが、日本人への適用にはさらなる検討が必要です。
- 乳製品に注意:乳糖不耐症がある場合は、ミルクや乳製品の摂取を控えることでIBS症状が改善したという報告もあります。
運動習慣の導入
適度な運動はIBS症状を改善させるとの報告があり、ウォーキングやヨガ、エアロビクスなどが効果的です。
ストレス管理と心理療法
- IBSの病態には心理的異常が深く関与しており、症状が重症化するにつれてその関与度が増すとされています。特にうつや不安が代表的な心理的異常です。(参考:今日からできるストレスコーピング実践テクニック10選)
- 心療内科的治療(心理療法):認知行動療法(CBT)、リラクセーション、催眠療法などがIBSに有用であることが報告されています。(参考:【比較】オンラインカウンセリングおすすめ3選。IBSの悩みを相談できるのは?)自施設で心理療法の実施が困難な場合は、専門機関への紹介も検討されます。
- 患者-医師関係の構築:消化器内科医として、患者さんとの良好な関係を築くことが治療の重要な目標となります。不安や悩みを安心して話せる関係は、それ自体が治療効果を持つ可能性があります。(参考:良いお医者さん・クリニックの見分け方 5つのチェックポイント)
注意点:やりがちだけど逆効果なNG行動
IBS対策として良かれと思って行っている行動が、実は逆効果になることがあります。
- 過度な食事制限:短鎖炭水化物(FODMAP)の制限食は有用性も報告されていますが、不必要な制限は栄養バランスを崩す可能性があります。専門家の指導のもとで慎重に行うべきです。
- 刺激性下剤の常用:便秘型IBS(IBS-C)の場合でも、刺激性下剤の常用は避けるべきで、頓用に限定することが推奨されています。長期投与の安全性が示されておらず、習慣性を誘発する可能性があるためです。
- 自己判断での抗不安薬の常用:IBSには不安が合併することが多く、抗不安薬が症状改善に寄与することもあります。しかし、特にベンゾジアゼピン系の抗不安薬は依存性の問題があるため、4〜6週間を目安に短期間にとどめ、漸減や代替薬への置換を図るべきとされています。
- アルコールの過剰摂取:少量から中等量のアルコール摂取ではIBS症状の増悪との有意な関連性は確認されていないものの、短期間に多量のアルコールを摂取することは下痢症状の増悪と関連がみられます。
まとめ
飲み会や会食は、IBSを抱えるあなたにとって不安なものかもしれませんが、適切な知識と対策で乗り切ることは十分に可能です。
IBSと上手く付き合いながら飲み会を楽しむためのポイント
- アルコールは種類と量に注意し、特に多量摂取は避けましょう。
- 脂質、香辛料、カフェイン、乳製品(乳糖不耐症の場合)を多く含むおつまみは控えめに。
- 症状が出た時のために、頓服薬を準備し、トイレの場所を把握しておきましょう。
- 日頃から食事内容や運動習慣を見直し、IBSの根本的な治療に取り組むことが重要です。
- ストレス管理と心理療法も有効な手段であり、必要であれば専門医に相談しましょう。
私の臨床経験上、IBSの治療は患者さん一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの対応が不可欠です。この記事でご紹介した内容を参考に、あなたにとって最適な飲み会の楽しみ方を見つけてください。そして、決して一人で抱え込まず、消化器専門医に相談してくださいね。