お腹の不調で悩むあなたにとって、病院での検査は不安ですよね。「胃カメラや大腸カメラは痛そう」「費用はどれくらいかかるんだろう」といった疑問や心配は、当然のことです。特に過敏性腸症候群(IBS)は、その診断プロセスが複雑に感じられるかもしれません。(参考:【医師監修】IBSセルフチェック|下痢・便秘・混合型のタイプを診断 )
この記事では、消化器専門医である私が、IBSの検査内容やその必要性、期間、そして気になる費用について、科学的根拠に基づきながら分かりやすく解説していきます。痛い検査や辛い検査は本当に必要なのでしょうか?大腸カメラは必須なのでしょうか?この記事を読み終える頃には、あなたの不安が少しでも和らぎ、安心して診療を受けられるようになることを願っています。
IBSの検査:結論から言うと「大腸カメラが必須とは限りません」
IBSの診断において、必ずしもすべての人に大腸カメラが必須というわけではありません。診療ガイドラインでは、IBSの診断にはまず、あなたの症状の詳しい聞き取りと身体診察が最も重要だとされています。その上で、「警告症状・徴候」がないかを慎重に確認し、必要に応じて大腸カメラを含む検査を行います。
IBSの診断メカニズム:検査の目的は「器質的疾患の除外」
IBSは、明確な病変がないにもかかわらず腹痛や便通異常が続く機能性の病気です。そのため、診断の目的は、まずがんや炎症性腸疾患(IBD)のような、症状の原因となる「器質的な病気(目に見える異常がある病気)」がないことを確認することにあります。医学的には、この「器質的疾患の除外」がIBS診断の第一歩と言えます。
診断は、国際的に標準化された「Rome IV基準」に沿って行われます。この基準は、主に腹痛と便通異常の症状に基づいてIBSを診断するものですが、その背景には「通常検査で検出される器質的消化器病によるものではない」という含意があります。
具体的な検査のステップは以下の通りです。
1. 症状の聞き取りと警告症状の確認
まずは、あなたの腹痛や便通異常の症状、そしてその関連症状について詳しくお聞きします。
次に、「警告症状・徴候」がないかを確認します。これらは、器質的疾患を示唆する重要なサインです。具体的には、以下のものが含まれます。
- 発熱
- 関節痛
- 血便
- 6ヶ月以内の意図しない3kg以上の体重減少
- 異常な身体所見(お腹のしこりなど)
- 50歳以上での発症
- 大腸の器質的疾患の既往歴や家族歴
これらの警告症状が一つでもあれば、器質的疾患の可能性を否定するために、大腸内視鏡検査(もしくは大腸造影検査)を行うことが推奨されます。これは、消化器内科医として最も重要な判断ポイントの一つです。
2. 通常の臨床検査
警告症状がない場合でも、一般的に行われる以下の「通常臨床検査」を実施します。
- 血液検査(血糖値を含む)
- 末梢血球数
- 炎症反応
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)
- 尿検査
- 便潜血検査
- 腹部単純X線写真
特に、便潜血陽性、貧血、低蛋白血症、炎症反応陽性のいずれかがあれば、大腸内視鏡検査を行うことになります。
現在のところ、IBSを診断するための特定のバイオマーカー(血液などで確認できる指標)は確立されていません。
3. 大腸内視鏡検査の必要性
上記で説明したように、IBSの診断において大腸内視鏡検査は主に器質的疾患との鑑別診断に有用です。特に警告徴候がある場合には、必要な検査とされています。
ただし、警告徴候がないIBSが疑われる患者さんでも、大腸内視鏡検査によって約30.3%に器質的疾患が見つかったという報告もあり、完全に除外できるわけではないことに注意が必要です。
検査時の痛みについてですが、IBS患者さんでは大腸内視鏡検査時に痛みを感じやすいという報告もあります。しかし、痛みを伴う検査は器質的疾患を見逃さないために必要な場合があることをご理解いただきたいと思います。
また、治療抵抗性のIBS患者さんの鑑別診断として、大腸粘膜生検(内視鏡で組織を採取して詳しく調べる検査)が有効な場合があります。
4. Rome IV基準による診断
警告症状や危険因子がなく、通常の臨床検査や大腸検査で異常がなければ、機能性消化管疾患(FGID)と判断し、Rome IV基準に基づいてIBSの診断を行います。
IBSと診断された場合、便の性状によって便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)、分類不能型(IBS-U)の4つのタイプに分類されます。これは、下痢止めや下剤を使用しないときの便の形状(ブリストル便形状尺度)に基づいています。(参考:【医師監修】IBSセルフチェック|下痢・便秘・混合型のタイプを診断 )
診断の正確さが体に及ぼす影響:見逃してはいけない器質的疾患
IBSの診断プロセスで最も重要なのは、「本当にIBSなのか、それとも別の病気なのか」を正確に見極めることです。もし、器質的な病気を見逃してしまうと、その病気が進行し、後からより深刻な事態を招く可能性があります。例えば、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などがIBSと似た症状を示すことがあります。(参考:Q. [cite_start]IBSが原因で、大腸がんなどの大きな病気に繋がることはありますか? [cite: 1])診療ガイドラインでは、IBSと診断されても、特に診断後3年間は器質的疾患との鑑別が不十分な症例が含まれている可能性があり、定期的な臨床検査による経過観察を推奨しています。
また、IBSはそれ自体が生命予後を悪化させることはありませんが、QOL(生活の質)を著しく低下させることが報告されています。(参考:IBSは治らない?消化器専門医が教える絶望しないための全知識 [cite: 1][cite_start])さらに、IBS患者さんではうつ病や不安障害といった精神的な問題を合併しやすいことが知られており(参考:ストレスでお腹が痛くなる本当の理由とは?脳と腸の深い関係「脳腸相関」を解説 [cite: 1])、重症の場合には自殺企図のリスクが高まるという非常に重要な報告もあります。そのため、患者さんが抱える心理的な問題にも配慮した、きめ細やかな診療が不可欠です。
私の臨床経験上、多くの患者さんが「この症状はどこまで検査をしたらいいのだろう」と悩まれています。しかし、適切な検査を適切なタイミングで行うことは、安心してIBSの治療に専念するためにも非常に大切なのです。
明日からできること:不安を和らげ、診断をスムーズに
検査への不安を和らげ、スムーズな診断に繋げるために、あなたにできることがいくつかあります。
症状を正確に伝える準備をする
いつから症状があるのか、どんな時に悪化するのか、便の形や頻度はどうかなど、具体的にメモしておくことをお勧めします。
血便、体重減少、発熱など、「これはおかしい」と感じる症状があれば、遠慮なく医師に伝えてください。これらは、より詳しい検査が必要かどうかを判断する重要な手がかりとなります。
医師との良好な関係を築く
消化器内科医として、患者さんとの信頼関係は非常に重要だと考えています。不明な点や不安なことは、医師に積極的に質問してください。良好な患者-医師関係は、治療の満足度や効果にも繋がります。(参考:良いお医者さん・クリニックの見分け方 5つのチェックポイント )
検査費用と期間について
今回の情報源である診療ガイドラインでは、具体的な検査費用については触れられていません。しかし、ガイドラインの目的の一つとして、不必要な検査を避けることで、患者さんの負担を軽減し、効率的な診療を目指すことが挙げられます。
検査期間は、問診や一般的な血液・便検査であれば数日〜1週間程度で結果が出ることが多いですが、大腸内視鏡検査が必要な場合は、予約状況によって期間が延びる可能性があります。これらは医療機関によって異なりますので、直接確認することをお勧めします。
診断後のセルフケアと治療
IBSと診断された場合でも、ご安心ください。食事や生活習慣の改善、薬物療法、心理療法など、症状を和らげるための様々な治療法があります。(参考:IBSで処方される代表的な薬の種類と効果、副作用まとめ)ストレスが病態に深く関与していることも分かっており、ストレスマネジメントなどの簡易精神療法もセルフケアの一つとして有効です。(参考:今日からできるストレスコーピング実践テクニック10選 )
まとめ
IBSの検査は、主に器質的疾患(がんや炎症など)を除外することが目的です。
大腸カメラは必ずしも全員に必須ではなく、血便や体重減少、発熱、50歳以上での発症などの「警告症状・徴候」がある場合に強く推奨されます。
通常の血液・便検査も、他の病気を鑑別するために重要です。
検査は、正確な診断に繋がり、安心してIBSの治療に専念するために大切なステップです。
検査費用や期間は医療機関によって異なりますが、診療ガイドラインは不必要な検査を避け、効率的な診療を促しています。
診断後も、医師との良好な関係を築き、症状や不安を共有しながら、適切な治療とセルフケアを続けていくことで、あなたのQOLは必ず改善が期待できます。
この情報が、あなたの不安を少しでも和らげ、お腹の不調と向き合う一助となれば幸いです。

