導入
お腹の不調は、IBS(過敏性腸症候群)を持つあなたにとって、日々の生活の大きな悩みですよね。食事のたびに「またお腹が痛くなるのではないか」「下痢や便秘が悪化するのではないか」と不安を感じる方も少なくないのではないでしょうか。
消化器専門医として、IBSでお悩みのあなたにまずお伝えしたいのは、食事の内容を見直すことが、症状を和らげるための重要な一歩になるということです。科学的な根拠に基づいた適切な食事療法は、IBSの症状改善に繋がることが報告されています。
この記事では、多くのIBS患者さんが特に注意すべき、症状を誘発しやすい食べ物・飲み物をワースト5形式で詳しく解説します。「これだけは絶対に避けたい」という食品から、意外と知られていないNG食品、そしてなぜそれらがダメなのか、その理由まで、私の専門的な視点からわかりやすくお伝えします。
IBS症状と食事療法の考え方
IBSの症状は人それぞれですが、特定の食べ物や飲み物が症状を悪化させる傾向にあることが、これまでの研究で明らかになっています。食事療法は、IBSの治療の初期段階において、生活習慣の改善と並んで重要な柱となります。(参考:IBSの治療期間はどれくらい?ゴールが見えない不安を解消します)
IBSの食事療法を考える上で大切なのは、「何が自分の症状を誘発するか」を知り、それらを控えることです。すべての食品を厳しく制限する必要はありませんが、特に症状を悪化させやすいとされる以下のグループの食品は、注意して摂取量を調整することが推奨されます。
IBSの人が避けるべき食べ物・飲み物ワースト5
特にIBS症状を誘発しやすいとされるワースト5の食品・飲料グループです。ご自身の体調と相談しながら、摂取を控えることを検討しましょう。
1. 脂質を多く含む食べ物
おすすめ理由:
脂質の多い食事は、IBS症状を増悪させることが様々な研究で報告されています [日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)(以下、IBS診療ガイドライン)]。特に、十二指腸に脂質が注入されると消化管症状が悪化することも明らかになっています 。
注意点:
脂質は、消化管の動きに影響を与え、腹痛や不快感を引き起こしやすいとされています。特に揚げ物や脂肪分の多い肉類、乳製品、菓子類などは、摂取量に注意しましょう。完全に避けるのではなく、少量から試して自分の体に合う量を見つけることが大切です。
2. カフェインを多く含む飲み物
おすすめ理由:
カフェイン類は、大腸、特に直腸S状結腸の運動を刺激し、IBS症状を増悪させることがわかっています 。
注意点:
朝の一杯や仕事中の休憩にコーヒーを飲む習慣がある方も多いかもしれませんが、IBSの症状がある場合は、デカフェの飲み物を選ぶか、カフェイン摂取量を控えることを検討してください。緑茶にもカフェインは含まれるため、注意が必要です。
3. 香辛料を多く含む食べ物
おすすめ理由:
赤唐辛子の主成分であるカプサイシンは、消化管運動を亢進させ、腹部灼熱感や痛みにつながるといわれています 。胡椒、カレー、生姜、シナモン、ターメリックなどを多く含む食品の摂取頻度とIBSの罹患率に有意な関連があるとの報告もあります 。
注意点:
スパイシーな料理は食欲をそそりますが、IBSの症状を悪化させる可能性が高いです。特に、腹部灼熱感や下痢の症状が優勢な方は、香辛料の摂取量を減らしてみることをお勧めします。
4. 乳糖(ラクトース)を多く含む乳製品(乳糖不耐症の方)
おすすめ理由:
ラクトース不耐症のIBS患者さんにおいては、ミルクや乳製品の摂取により下痢が誘発されることが報告されています 。ラクトース制限食を摂取することで、IBS症状が有意に改善されたとの報告もあります 。
注意点:
日本人には乳糖不耐症の方が多く、乳製品に含まれる乳糖が消化吸収されずに大腸に達し、発酵することでIBS症状を引き起こすことがあります。ご自身が乳糖不耐症であるかどうかは、自己判断だけでなく医師に相談して確認することをお勧めします。乳製品を避けたい場合は、ラクトースフリーの牛乳や豆乳、アーモンドミルクなどで代用しましょう。(参考:IBSでも飲めるおすすめプロテインは?お腹がゴロゴロしない選び方)
5. 高FODMAP食
おすすめ理由:
FODMAPs(短鎖炭水化物)は、IBSの症状を抑えるために避けるべき食品として、特に欧米で注目されています 。これらは小腸で吸収されにくく、大腸で発酵し、ガス発生や水分流入を促すことでIBS症状を引き起こすと考えられています。
注意点:
FODMAPは、発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類、糖アルコールといった短鎖炭水化物の総称です 。小麦、玉ねぎ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつなどが代表的な高FODMAP食品として挙げられます [IBS診療ガイドライン]。(参考:低FODMAP食事法の「高FODMAP食品」「低FODMAP食品」リスト完全版)
全ての高FODMAP食品を完全に避ける「低FODMAP食」は、専門的な指導のもとで行うべき食事療法です。自己判断で行うと栄養バランスが偏る可能性があるため、まずは量を減らしたり、症状が特に出やすいものから試したりすることをお勧めします。
補足:食事療法だけで改善しない場合は
私の臨床経験上、食事内容の見直しはIBS治療の第一歩として非常に重要だと感じています。特に、上記のような症状を誘発しやすい食品を意識的に控えることで、多くの方が症状の改善を実感されています。
ただし、食事療法だけで症状が完全に消失するとは限りません。IBSの病態は、ゲノム、脳腸ペプチド、消化管運動異常、内臓知覚過敏、消化管免疫、粘膜透過性、腸内細菌、心理社会的因子など、多岐にわたる要因が複雑に絡み合っています 。(参考:ストレスでお腹が痛くなる本当の理由とは?脳と腸の深い関係「脳腸相関」を解説)
そのため、薬物療法(消化管運動機能調節薬、プロバイオティクス、粘膜上皮機能変容薬など)(参考:IBSで処方される代表的な薬の種類と効果、副作用まとめ)や、心理療法(認知行動療法、催眠療法など)(参考:【図解】今日からできるストレスコーピング実践テクニック10選)といった他の治療法と組み合わせることで、より効果的な症状改善が期待できます 。
また、ストレスや心理的異常もIBSの病態に深く関与しており 、食事だけでなく、運動習慣の導入もIBS症状の改善に有用であることが示されています 。
まとめ
IBSの症状でお悩みのあなたへ、消化器専門医として、今日の記事のポイントをまとめます。
- 脂質の多い食べ物、カフェイン類、香辛料、乳糖を多く含む乳製品(乳糖不耐症の方)、高FODMAP食は、IBS症状を誘発しやすいため、摂取量を控えることが推奨されます 。
- これらの食品を避けることで、腹痛や下痢、便秘などのIBS症状の改善が期待できます 。
- ご自身の症状と食事内容を記録し、何が症状を悪化させるかを見極めることが、効果的な食事療法に繋がります。
- 食事療法はIBS治療の重要な一部ですが、薬物療法や心理療法、生活習慣の改善(運動など)と組み合わせることで、より高い効果が期待できます。
もし症状が改善しない場合は、一人で悩まず、消化器専門医に相談してください。医学的には、IBSの治療目標は患者さん自身が満足できる症状改善を得ることです [日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。適切な診断と治療計画を立てることで、あなたのQOL向上をサポートできるはずです。


