仕事・職場での向き合い方

IBSを理由に休職や退職はできる?診断書の貰い方と手続き

仕事のプレッシャーとIBSの悪循環

仕事のプレッシャーやストレスが重なると、お腹の不調、特に過敏性腸症候群(IBS)の症状が悪化して、「もう仕事に行くのが限界…」と感じるあなたは少なくないのではないでしょうか。急な腹痛や下痢、便秘によって業務に集中できなかったり、通勤中に不安でたまらなくなったり…。(参考:「ストレスで腹痛」は気のせいじゃない!脳と腸の深い関係)「休職したいけれど、どうすればいいか分からない」「診断書はどこで貰えるの?」といった切実な悩みを抱えるのは、当然のことですよね。

このIBSは、身体的な苦痛だけでなく、精神的な負担も非常に大きい疾患です。(参考:ストレスの少ない働き方とは?IBSと両立しやすい仕事の探し方)しかし、適切なステップを踏むことで、症状を管理し、安心して仕事と向き合う道を見つけることが可能です。この記事では、あなたの不安に寄り添いながら、IBSによる休職・退職を検討する際に知っておくべき「即効性のある対策」と「根本的な予防法」を、消化器専門医である私が詳しく解説していきます。

仕事がつらい時の第一歩:専門医への相談と診断書

仕事がつらいと感じた時にまず最も簡単で効果的な対策は、IBSの専門的な診断と治療を受けることです。(参考:IBSの病院選びガイド|消化器内科と心療内科どっち?)特に、休職や退職を検討する前に、医師から正式な診断書を得ることが、次のステップへ進むための第一歩となります。この診断書は、あなたの症状が医学的に認められた疾患によるものであり、仕事への影響があることを職場に理解してもらう上で非常に重要な役割を果たします。

IBSは「気のせい」ではない:脳腸相関とストレス

「気のせい」と言われることも多いIBSですが、医学的には「機能性消化管疾患」という明確な病気です。私の臨床経験上、多くの患者さんが誤解されていますが、IBSは精神的な弱さからくるものではなく、「脳腸相関(のうちょうそうかん)」という脳と消化管の密接な連携が関与する身体の疾患です。(参考:ストレスでお腹が痛くなる本当の理由とは?脳と腸の深い関係「脳腸相関」を解説)

診療ガイドラインでは、IBSの病態には、ゲノム、脳腸ペプチド、消化管運動異常、内臓知覚過敏、消化管免疫、粘膜透過性、腸内細菌、そして心理社会的因子など、様々な要素が複雑に絡み合っていることが示されています。これらの要素が総合的に影響しあうことで、IBS特有の腹痛や便通異常が引き起こされるのです。

特に、ストレスはIBSの病態に深く関与し、症状を悪化させる主要な要因の一つとされています。人生早期に受けた外傷的なストレスもIBS発症のリスクを高めるという報告もあります。また、うつや不安といった心理的な異常もIBSの病態に関与し、症状が重症化するにつれて、これらの心理的要因の影響度が増すことが分かっています。

IBSは生命予後に直接影響を与えるものではありませんが(参考:IBSは治らない?消化器専門医が教える絶望しないための全知識)、その症状はあなたの健康関連QOL(生活の質)を著しく低下させ、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼす可能性があります。IBSの症状が悪化する予測因子として、元々の不安やうつ状態、身体化傾向、手術歴などが挙げられています。さらに、多くのIBS患者さんが「何か重篤な病気なのではないか」という健康懸念を抱えており(参考:Q. IBSが原因で、大腸がんなどの大きな病気に繋がることはありますか?)、これが医療機関を受診するきっかけとなることもあります。残念ながら、一部の報告では、IBS患者さんで自殺行為に及ぶ率が高いことも示されており(参考:「もうダメだ」と感じた時の、心の緊急避難場所リスト)、特に症状が重い場合には、より慎重な診療の継続が必要となります。

IBSで休職・退職を考える時の具体的な3ステップ

IBSの症状で休職や退職を検討する際には、計画的に行動することが大切です。

ステップ1:専門医への受診と診断書の相談

1. 消化器内科を受診する

何よりもまず、消化器内科を受診し、あなたの症状を詳しく医師に伝えることが重要です。(参考:良いお医者さん・クリニックの見分け方 5つのチェックポイント)IBSは国際的なRome IV基準(ローマしきじゅん)に基づいて診断されます。(参考:【医師監修】IBSセルフチェック|下痢・便秘・混合型のタイプを診断)これは、腹痛と便通異常の症状の頻度や持続期間など、いくつかの項目を満たすことで診断されるものです。

2. 診断の流れ

  • 医師はまず、発熱、関節痛、血便、予期せぬ体重減少、腹部腫瘤の触知などの「警告症状・徴候」や、50歳以上での発症、大腸器質的疾患の家族歴などの「危険因子」がないかを確認します。これらのいずれかが一つでもある場合、または患者さんが精密検査を希望する場合には、大腸内視鏡検査(または大腸造影検査)などの詳細な検査が行われます。
  • また、血液生化学検査(血糖値を含む)、末梢血球数、炎症反応、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、尿一般検査、便潜血検査、腹部単純X線写真などの「通常臨床検査」も行われます。特に便潜血陽性、貧血、低蛋白血症、炎症反応陽性のいずれかがあれば、大腸内視鏡検査が推奨されます。
  • これらの検査で器質的な病気(例えば、炎症性腸疾患や大腸がんなど)が除外された上で、Rome IV基準を満たす場合にIBSと診断されます。
https://reliecho.com/ibs-examination-cost

消化器内科医として、私はあなたの症状を正確に評価し、必要であれば上記の検査を行い、正式なIBSの診断を行います。そして、診断に基づき、休職が必要であると判断した場合には、その旨を記載した診断書を発行します。

3. 診断書に記載してもらう内容

診断書には、IBSの診断名、症状の重症度、そしてそれによって仕事の継続が困難であること、休養が必要であることなどを具体的に記載してもらうことが望ましいです。職場が病状を理解し、適切な対応をとるために役立ちます。

ステップ2:事前に準備すること(症状の記録)

1. 症状日記をつける

受診する前に、以下の点を記録しておくと、医師があなたの状態を正確に把握しやすくなります。

  • いつ(日時)、どのような症状(腹痛の程度、便の形状・回数など)が現れたか。
  • 症状が現れたときの状況(食事内容、ストレスの有無、仕事の忙しさなど)。
  • 症状が仕事にどのように影響しているか(集中力の低下、会議への参加困難、通勤の困難さなど)。

2. 医師への具体的な説明

診察時には、単に「お腹が痛い」だけでなく、「腹痛で何度もトイレに駆け込み、会議を中断させざるを得ない」「下痢や便秘の波が激しく、通勤電車に乗るのが怖い」など、仕事に具体的にどのような支障が出ているかを詳しく説明してください。精神的な負担が大きい場合は、それも正直に伝えてください。

3. 治療の第一段階への取り組み

IBSの治療は段階的に進められます。まず、医師はIBSの病態生理をあなたに理解できる言葉で十分に説明し、良好な患者-医師関係を築きます。治療の目標は、患者さん自身が評価する症状改善です。

  • 食事指導・生活習慣改善: まず、型(便秘型、下痢型、混合型など)を問わず、食事と生活習慣の改善指導が行われます。例えば、脂質、カフェイン類、香辛料を多く含む食品や乳製品を控えることが推奨されます。(参考:IBSの人が避けるべき食べ物・飲み物ワースト5)
  • 薬物療法: 消化管運動機能調節薬やプロバイオティクス、高分子重合体などが投与されます。下痢型IBSには5-HT3拮抗薬(ごーエイチティーさんきっこうやく)、便秘型IBSには粘膜上皮機能変容薬などが用いられます。

これらの治療を4~8週間継続し、改善が見られなければ、次の段階の治療へと移行します。第2段階では、ストレスや心理的異常の関与を判断し、必要に応じて抗うつ薬や抗不安薬、簡易精神療法などが検討されます。

ステップ3:日常でできる根本対策(治療継続)

1. 継続的な薬物療法と心理療法

IBSは慢性的な疾患であり、症状の改善には継続的な治療が不可欠です。

  • 薬物療法: 症状の型や優勢症状に基づいて、様々な薬物が使用されます。消化管運動機能調節薬、抗コリン薬(腹痛に有効)、プロバイオティクス、5-HT3拮抗薬(下痢型に有効)、粘膜上皮機能変容薬(便秘型に有効)、非刺激性下剤、一部の漢方薬(桂枝加芍薬湯、半夏瀉心湯、大建中湯など)、抗アレルギー薬、さらには一部の非吸収性抗菌薬などが挙げられます。
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  • 心理療法: 薬物療法だけでは症状が改善しない場合や、心理的要因の関与が大きい場合には、専門的な心理療法が非常に有効です。認知行動療法(CBT)、リラクセーション法、催眠療法などが推奨されています。簡易精神療法として、ストレスマネジメントも行われます。(参考:今日からできるストレスコーピング実践テクニック10選)

2. 生活習慣の改善

治療効果を高め、症状の再発を防ぐためには、日々の生活習慣を見直すことが重要です。

3. 良好な患者-医師関係の維持

IBSのような機能性消化管疾患においては、医師と患者さんの間の信頼関係が治療効果に大きく影響します。定期的に受診し、症状の変化や不安な点を医師に相談しながら、二人三脚で治療を進めていくことが何よりも大切です。

IBS治療で避けるべきNG行動

IBSの治療と休職・退職を考える上で、避けるべき「やりがちだけど逆効果なNG行動」があります。

1. 自己判断で治療を中断しないこと

IBSの症状は変動することが多く、一時的に改善しても、治療を中断すると再発する可能性があります。(参考:IBSの治療期間はどれくらい?ゴールが見えない不安を解消します)症状が自然に消失することもありますが、重症例では継続的な治療が必要です。

2. 無理をして仕事を継続すること

IBSの症状を我慢し続けることは、あなたのQOLをさらに低下させ、精神的な負担を増大させます。IBS患者さんのQOLは著しく低下していることが報告されており、無理な継続は状態を悪化させることに繋がりかねません。

3. 他の重篤な疾患との鑑別を怠ること

IBSと診断されていても、経過観察中に新たな警告症状が現れた場合は、炎症性腸疾患(IBD)や機能性ディスペプシア(FD)などの他の消化管疾患が合併している可能性も考慮し、追加の検査が必要になることがあります。FDはIBSと併存しやすい疾患の一つです。消化器内科医として、私たちが最も注意を払うのは、IBSと似た症状を示す他の病気を見逃さないことです。

まとめ:IBSは管理できる疾患。一人で抱え込まないで

IBSのつらい症状によって仕事に限界を感じることは、決して珍しいことではありません。休職や退職を検討する際は、以下の点を踏まえて行動することで、より良い結果に繋がるでしょう。

  • まずは専門の消化器内科を受診し、正式な診断と診断書の発行を依頼する。
  • 自身の症状と仕事への影響を具体的に記録し、医師に正確に伝える。
  • 医師と相談しながら、薬物療法、心理療法、生活習慣改善を組み合わせた継続的な治療に取り組む。
  • 自己判断で治療を中断したり、無理して症状を我慢したりしない。

IBSは適切に管理できる疾患です。一人で抱え込まず、私たち医療の専門家を頼ってください。あなたの不安が和らぎ、心身ともに健康な状態で、仕事や生活と再び向き合えるようになることを心から願っています。

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