そのお気持ち、痛いほどよくわかります。
消化器専門医である私の外来にも、「週末に旅行を控えているのに、お腹の調子が悪くならないか不安で仕方ない」「大切なデートの日に限って、お腹が痛くなる気がする」と悩んで来られる患者さんは非常に多いです。
楽しみにしているはずのイベントが、お腹の不調という「不安の種」に変わってしまうのは、本当につらいことですよね。これは「予期不安」と呼ばれる、過敏性腸症群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)の患者さんによく見られる症状の一つです。
「また、あの時みたいになったらどうしよう…」という不安がストレスとなり、自律神経を乱し、かえってお腹の症状を引き起こしてしまうという悪循環です。
この予期不安のループから抜け出すために、専門医としていくつか具体的な対策をご紹介します。
1. 「お守り」としての薬を準備する
最も即効性があり、安心感につながる方法です。
医師に相談し、症状が出た時にすぐに飲める「頓服薬(とんぷくやく)」を処方してもらいましょう。
- 下痢が不安な方へ:下痢止めの薬(ロペラミドなど)
- 腹痛が不安な方へ:鎮痙薬(ちんけいやく:お腹の痙攣を抑える薬)
- 吐き気や胃もたれが不安な方へ:制吐剤(吐き気止め)や消化管運動改善薬
大切なのは、「薬を持っている」という事実そのものが、大きな安心材料(お守り)になることです。実際に使わずに済むことも多いのですが、万が一の時も「これさえあれば大丈夫」と思えることが、予期不安を和らげる最大の鍵となります。
(参考:Q. IBSの薬は、ずっと飲み続けないといけませんか?)
2. 事前準備で「不安の芽」を摘む
不安は、「よくわからない」状態や「コントロールできない」と感じる時に強くなります。できる限りの準備をしておくことで、不安を軽減できます。
トイレの場所を把握しておく
移動ルートや目的地のトイレの場所を、事前に地図アプリなどで確認しておきましょう。「どこにあるかわからない」という不安がなくなるだけで、心に余裕が生まれます。
食事の計画を立てる
旅行先やデートでの食事は楽しみの一つですが、不安要素にもなり得ます。脂っこいものや刺激物を避け、消化に良いメニューを選べるお店をあらかじめリサーチしておくと安心です。低FODMAP(フォドマップ)食を実践中の方は、食べられるものを事前にチェックしておきましょう。
スケジュールに「空白」を作る
予定を詰め込みすぎると、「次の予定に間に合わないかも」「急にお腹が痛くなったらどうしよう」という焦りがストレスになります。あえて何もしない時間や、ゆっくり休める時間をスケジュールに組み込んでおくことが大切です。
3. 思考のクセを変える練習(認知行動療法的なアプローチ)
これは少し練習が必要ですが、根本的な改善に役立ちます。
予期不安は、無意識のうちに「最悪の事態」ばかりを想像してしまう思考のクセから来ています。
「100点満点」を目指さない
「絶対に失敗してはいけない」「完璧に楽しむべきだ」というプレッシャーが、自分自身を追い詰めます。「もし症状が出ても、薬があるから大丈夫」「少し休めばいい」と、完璧を目指さない思考(マインドセット)を持ちましょう。
「今、ここ」に集中する
不安は「過去の後悔」か「未来への心配」から生まれます。デート中や旅行中に不安がよぎったら、意識的に「今、目の前の相手との会話」や「今、見ている景色」に集中する練習をしてみてください。
(参考:Q. IBSやFDは「ストレスが原因」と言われますが、どう対処すればいいですか?)
何よりも伝えたいのは、「あなただけではない」ということです
まずは「お守りの薬」を手に入れ、できる範囲の「事前準備」をする。それだけでも、心はかなり軽くなるはずです。
せっかくの楽しい時間を、お腹の不安に邪魔されないよう、心から応援しています。