ストレスによるお腹の不調? 産業医・社内カウンセリングを味方につける活用法
お仕事中に、突然の腹痛に襲われたり、会議中に急にトイレに行きたくなったり…。周りに悟られないよう、必死で症状を耐え忍んだ経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。デリケートな問題だからこそ、なかなか人に相談できず、一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。
しかし、そのお腹の不調、もしかしたらストレスが大きく関わっているかもしれません。過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)といった機能性消化管疾患は、ストレスによって症状が悪化することが多く、特に仕事環境でのストレスは症状に直結しやすいものです。
「会社の産業医やカウンセリングルームって、何を相談できるの? 相談したら、人事評価に響かないか心配…」
そんな不安を抱えているあなたのために、この記事では、産業医や社内カウンセリングルームを上手に活用し、即効性のある症状対策と根本的な不調の予防法を見つけるためのヒントをお伝えします。
まずは知ってほしい。産業医・社内カウンセリングはあなたの強い味方です
最も大切なこととして、産業医や社内カウンセリングルームは、あなたの心身の健康をサポートするために存在しています。決してあなたの評価に影響を与える場所ではありません。守秘義務が徹底されており、安心して相談できる専門家として、活用しない手はありません。
ストレスがお腹にくるのは「脳腸相関」が原因です
私たち消化器内科医として、まず皆さんに知っておいてほしいのは、過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)といったお腹の不調の病態には、ストレスが深く関与しているという点です [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS), 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。
これは「脳腸相関(のうちょうそうかん)」という、脳と消化管が密接に連携しているメカニズムによるものです [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)]。ストレスを感じると、脳がその情報を消化管に伝え、消化管の動きや感覚に影響を与えることがあります。(参考:「ストレスで腹痛」は気のせいじゃない!脳と腸の深い関係)
例えば、IBSの患者さんでは、ストレス負荷時に大腸の運動が亢進したり、脳波に変化が見られたりすることが報告されています [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)]。また、FDの患者さんでも、不安や抑うつなどの心理的要因が症状やQOL(生活の質)に影響することが指摘されています [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。
多くの患者さんが「お腹の調子が悪いと、気分も落ち込むし、仕事にも集中できない」と訴えられます。IBSやFDは、健康関連QOLを著しく低下させることが分かっています [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS), 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。そして、この精神的な苦痛が、さらに医療機関を受診する行動に繋がることもあります [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS), 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。
症状の改善は、患者さん自身のQOL向上にとって非常に重要な治療目標となります [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。
状況別!産業医・社内カウンセリング活用ステップ
では、具体的にどのように産業医や社内カウンセリングルームを活用すればよいのでしょうか。状況別にステップをご紹介します。
1. 今すぐできる応急処置(症状が辛い時)
産業医やカウンセリングの予約が取れるまで、または相談するまでに、まずご自身でできる症状緩和策を試してみましょう。
- ストレス対処法: ストレスを自覚した際には、深呼吸やリラクセーションを試みてください。(参考:5分でできるマインドフルネス呼吸法)短い時間でも効果が期待できます。
- 食事の工夫: 脂質が多い食事、カフェイン類、香辛料を多く含む食品、ミルクや乳製品(乳糖不耐症の方)は、IBSやFDの症状を誘発しやすいと報告されています [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS), 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。一時的にこれらの摂取を控えることで、症状が和らぐ可能性があります。(参考:IBSの人が避けるべき食べ物・飲み物ワースト5)
- 市販薬や処方薬の活用: 消化器内科医として、IBSやFDの症状に合わせて、消化管運動機能調節薬やプロバイオティクス、高分子重合体などが治療法として有用であるとされています [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS), 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。症状が辛い場合は、まずはかかりつけの消化器内科にご相談いただき、適切な薬を処方してもらうことも大切です。(参考:IBSで処方される代表的な薬の種類と効果、副作用まとめ)
2. 事前にできる準備(産業医・カウンセリング面談前)
面談をより有意義なものにするために、いくつか準備をしておくと良いでしょう。
- 症状の整理: いつから、どのような症状(腹痛、下痢、便秘、膨満感など)が、どのくらいの頻度で、どれくらいの期間続いているか、具体的にメモにまとめてください。(参考:【医師監修】IBSセルフチェック|下痢・便秘・混合型のタイプを診断)
- 服薬・治療歴のメモ: 現在服用している薬(市販薬含む)や、これまでの医療機関での治療歴、診断名などを正確に伝えると、より的確なアドバイスが得られます。例えば「現在、消化器内科でIBSの治療を受けています」など、具体的な情報を伝えることで、産業医も状況を把握しやすくなります。
- ストレス源の把握: 仕事内容、人間関係、残業時間など、ご自身がストレスを感じている具体的な要因を整理しておきましょう。
3. 日常でできる根本対策(産業医・カウンセリングとの連携)
産業医やカウンセリングルームは、あなたの心身の健康を長期的にサポートしてくれます。
産業医の役:
- 健康診断結果に基づく指導: 健康診断の結果を元に、健康上のアドバイスや必要な受診の推奨を行います。
- ストレスチェック後の面談: ストレスチェックの結果が思わしくない場合、面談を通じて心身の状態を把握し、個別の対策を提案してくれます。
- 長時間労働者への面談: 労働時間が長い従業員に対して、健康状態の確認や生活習慣改善のアドバイスを行います。
- 休職・復職のサポート: 病気で休職する際の診断書作成のアドバイスや、復職時の職場調整など、スムーズな職場復帰をサポートします。(参考:IBSを理由に休職や退職はできる?診断書の貰い方と手続き)
- 職場環境改善への提言: 必要に応じて、あなたの状況を踏まえて会社に対して職場環境改善の提言を行うことがあります。
社内カウンセリングの役割:
- 心理的サポート: 専門のカウンセラーが、あなたの抱えるストレスや不安についてじっくりと耳を傾け、心の負担を軽減するためのサポートを行います。
- ストレス対処法の提供: ストレスマネジメントやリラクセーション法など、具体的なストレス対処のスキルを教えてくれます。
- 守秘義務の徹底: カウンセリングの内容は守秘義務により厳重に保護され、人事評価に影響することはありません。
- 専門機関への紹介: 必要と判断された場合、より専門的な治療が必要な医療機関(心療内科や精神科など)を紹介してくれます。(参考:IBSの病院選びガイド|消化器内科と心療内科どっち?)
- 心理療法の活用: 医学的には、認知行動療法やリラクセーション、催眠療法のような心理療法がIBSやFDの症状改善に有用であると、ガイドラインで強く推奨されています [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS), 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)]。これらの治療は、消化管症状だけでなく、精神的健康や日常生活機能の改善にも繋がることがメタアナリシスで報告されています [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)]。産業医やカウンセラーを通じて、これらの専門的な心理療法が受けられる機関を紹介してもらうことも可能です。
やりがちだけど逆効果なNG行動
- 症状を我慢して放置すること: 多くの患者さんが誤解されていますが、IBSやFDの症状は、我慢すればするほどQOLを低下させ、さらに精神的な負担を増大させる可能性があります [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)]。高次医療機関を受診するIBS患者さんでは、精神的な問題が深く根底にあることが示唆されており、放置せずに慎重な診療継続が重要です [機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)]。(参考:「もうダメだ」と感じた時の、心の緊急避難場所リスト)
- 自己判断で服薬を中断すること: 私たち消化器内科医は、IBSやFDの症状を抱える患者さんが、自己判断で処方薬の服用を中断してしまうケースを多く見てきました。治療効果が得られないと感じても、安易に薬を中断すると症状が悪化する可能性があります。必ず医師に相談し、今後の治療方針について話し合いましょう。
- 相談をためらうこと: 産業医やカウンセリングルームの利用をためらう気持ちはよく分かります。「相談内容が会社に伝わって評価に影響するのでは」という心配は当然です。しかし、これらの専門家には守秘義務があり、あなたの健康を守ることが彼らの役割です。安心してください。
まとめ
お腹の不調は、仕事や日常生活に大きな影響を及ぼし、一人で抱え込むとさらなるストレスに繋がります。
- ストレスはIBSやFDの症状を悪化させる主要因です。
- 産業医や社内カウンセリングルームは、守秘義務があり、安心して相談できる心強い味方です。
- 症状の整理や服薬履歴のメモなど、事前準備をすることで、より質の高いサポートが受けられます。
- 心理療法は、お腹の不調と精神的健康の両方に効果が期待できる治療法です。
- 症状を我慢せず、自己判断で治療を中断せず、積極的に専門家を頼りましょう。
あなたは一人ではありません。産業医やカウンセラー、そして私たち消化器内科医を頼ってください。あなたの健康と、より快適な毎日をサポートするために、私たち専門家がここにいます。一歩踏み出すことで、きっと今より楽になれるはずです。