基本と原因

子供の頃からお腹が弱かった…それもIBSのサインかもしれません

「体質」と諦めた腹痛、IBSの可能性

「子供の頃からお腹が痛くなることが多くて…」「昔からお腹が弱い体質だから」と、長年のお腹の不調を諦めていませんか? 特に、大人になってから症状が悪化した気がする、子供の頃の腹痛と今の不調には何か関係があるのだろうか、と不安に感じている読者の方もいらっしゃるかもしれませんね。

消化器内科医として、まず皆さんに知っておいてほしいことがあります。それは、子供の頃から経験しているその腹痛が、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)という病気のサインである可能性があるということです。この記事では、なぜ昔からのお腹の不調がIBSと関連するのか、そのメカニズムを根本から理解し、今日からできる対処法について解説していきます。

「昔からのお腹の不調」は、まさにIBSのサインかもしれません

「昔からのお腹の不調」は、まさにIBSのサインかもしれません。その背景には、私たちの体内で密接に連携し合っている(参考:「脳腸相関(のうちょうそうかん)」という仕組みが大きく関わっていると考えられています。

原因の深掘り

IBSは、消化管に明らかな異常がないにもかかわらず、腹痛や便通異常(下痢、便秘、または両方)が続く病気です。このIBSの病態には、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。

医学的には、IBSの病態には主に以下のような要素が関与すると考えられています。

脳と腸の密接な連携:脳腸相関

ストレスを感じるとお腹が痛くなる、というのは多くの方が経験することですよね。これは、脳と腸が神経系やホルモンを介して常に情報交換をしている(参考:「脳腸相関」という仕組みによるものです。IBSの患者さんでは、この連携が過敏になっていると考えられています。

幼少期の体験やストレス

驚かれるかもしれませんが、人生の早い段階で経験した外傷的なストレス(例えば、虐待など)は、大人になってからのIBS発症リスクを高めることが報告されています。あるメタアナリシスでは、IBSを含む機能性身体症候群と外傷的ストレス体験の関連性が示されており、IBSに限定した分析でも、外傷的ストレスがある場合にIBSを発症するオッズが約2.8倍に増加することが示されています。これは、子供の頃の辛い経験が、心だけでなく、お腹の不調という形で現れる可能性があることを示唆しています。

感染症の既往

「お腹を壊した後に、ずっと調子が悪い」と感じたことはありませんか? 過去に細菌性やウイルス性の急性胃腸炎にかかった後もIBSのような症状が続くことを、「感染性腸炎後IBS(PI-IBS)」と呼びます。特に、若年者や女性、そして胃腸炎の程度が重かった場合に発症しやすいとされています。IBS全体の約5%から25%がこのタイプのIBSであると推定されており、これも幼少期や若い頃の経験が現在の症状につながる一例です。

遺伝的要因と学習効果

「家族みんなお腹が弱い」と感じる方もいるかもしれません。IBSは一つの遺伝子変異で起こる病気ではありませんが、遺伝的な要素も関与することが双生児の研究で示唆されています。また、母親がIBSである場合に子供もIBSを発症する割合が高いという報告もあり、これは遺伝だけでなく、家庭環境における病気への対処行動の「学習効果」や、遺伝子の働きに影響を与える「エピゲノム」が関係している可能性も考えられています。

年齢層別の傾向

興味深いことに、IBSの有病率は30歳未満で高く、年齢とともに低下する傾向が報告されています。これは、IBSが比較的若い時期に発症しやすい疾患であることを示しており、昔からお腹が弱かったという感覚と合致する可能性があります。

体への影響

これら脳腸相関の乱れやその他の要因は、腸の働きに具体的な影響を及ぼします。

消化管運動異常と内臓知覚過敏

脳と腸の連携がうまくいかないと、消化管の動きが異常になったり、内臓の感覚が過敏になったりします。通常は痛みとして感じないような弱い刺激でも、過敏に反応して腹痛を感じるようになるのです。

症状の慢性化と多様化

その結果として、腹痛だけでなく、下痢や便秘といった便通の異常、お腹の張りなどが現れます。IBSの症状は変動することがありますが、慢性化しやすい特徴があります。大人になってストレスが増えたり、ライフスタイルが変化したりすることで、子供の頃からの症状が悪化したり、新たな症状が現れたりすることも当然起こりえます。

生活の質の低下

お腹の不調は、日常生活の質(QOL)を著しく低下させることがわかっています。これは、仕事や学業、人間関係にも影響を及ぼしかねない、深刻な問題です。

明日からできること

昔からのお腹の不調に悩んでいるあなたも、(参考:IBSかもしれない)と感じたら、まずは専門家である消化器内科医に相談することから始めましょう。適切な診断を受け、(参考:器質的な病気(例えば、炎症性腸疾患や大腸がんなど)がないこと)を確認することが何よりも大切です。

その上で、私の臨床経験上、IBSの治療において最も重要だと感じているのは、日々のセルフケアと生活の見直しです。

食事の見直し

特定の食品がIBS症状を誘発することがあります。脂質の多い食事、カフェイン類、香辛料を多く含む食品、そして乳糖不耐症のある方ではミルクや乳製品を控えることが、症状の軽減につながる可能性があります。また、(参考:「FODMAP(フォドマップ)」という特定の炭水化物を多く含む食品を避ける食事療法も、症状改善に有用であるという報告があります。

https://reliecho.com/ibs-foods-to-avoid

生活習慣の改善

適度な運動は、(参考:IBS症状の改善に期待が持てます)。ウォーキングやヨガなど、無理なく続けられる運動を取り入れてみましょう。喫煙や過度な飲酒、睡眠不足は体全体の健康に影響を及ぼすため、直接IBS症状の改善に明確なエビデンスはないものの、規則正しい生活を心がけることは、健康的な腸を育む上でも大切です。

心身のケア

IBSとストレスや心理的要因は深く関連しています。(参考:ストレスマネジメント、リラクセーション法(自律訓練法など)、催眠療法、認知行動療法といった専門的な心理療法は、IBS症状の改善に有用であることが示されています。これらは、心身両面からアプローチすることで、脳腸相関のバランスを整えることにつながります。ご自身でできる簡単なリラクセーションから試してみるのも良いでしょう。

まとめ

長年「体質」だと感じていた子供の頃からの腹痛が、実はIBSのサインである可能性と、そのメカニックをお伝えしました。

  • IBSは、脳と腸の密接な連携である(参考:「脳腸相関」の乱れが病態に関与します。
  • 幼少期の外傷的ストレスや感染性胃腸炎の既往が、IBS発症のリスクを高めることが報告されています。
  • 遺伝的な要因や、家族の病気への対処行動の学習も影響する可能性があります。
  • 症状は成長とともに変化したり悪化したりすることもありますが、適切な診断と治療、セルフケアで改善が期待できます。

お腹の不調はつらいものですが、原因を理解し、専門家と協力して向き合うことで、症状を和らげ、より快適な日常生活を送ることが期待できます。どうか一人で抱え込まず、一緒に解決の道をみつけていきましょう。

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