食事療法

低FODMAP食事法の「高FODMAP食品」「低FODMAP食品」リスト完全版

お腹の不調、特に過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)でお悩みの方は、日々の食事にも気を遣うことが多いですよね。私も多くの患者さんと接する中で、食事が症状に大きく影響することを痛感しています。何を食べたら良いのか、何を避けるべきなのか、具体的に知りたいというあなたの不安は当然です。

消化器内科医として、お腹の不調に悩む皆さんに寄り添いながら、科学的根拠に基づいた情報をお届けしています。この記事では、IBSの症状緩和に役立つ可能性がある「低FODMAP(フォドマップ)食事法」について、具体的に避けるべき「高FODMAP食品」と、安心して食べられる「低FODMAP食品」をリスト形式でご紹介します。このリストが、あなたの買い物や外食の際の参考になり、日々の食事の選択に役立つことを願っています。

低FODMAP食事法について知る前に

まずはFODMAPとは何か、なぜIBSの症状と関連するのかを理解しておきましょう。

FODMAP(フォドマップ)とは

FODMAPとは、Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, And Polyolsの頭文字をとった言葉で、「発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール」という短鎖炭水化物(たんさたんすいかぶつ)の総称です [日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)(以下「IBS診療ガイドライン」), CQ 3-1]。

これらのFODMAPsは、小腸で分解・吸収されにくいため、そのまま大腸に到達します。大腸に到達したFODMAPsは、腸内細菌によって急速に発酵・分解され、水素ガスやメタンガスなどを発生させます [IBS診療ガイドライン, CQ 3-1]。また、高浸透圧性(こうしんとうあつせい)により、腸管内に水分を引き込む特徴があります [IBS診療ガイドライン, CQ 3-1]。

IBS患者さんでは、これらの作用によってガスが溜まりやすくなったり、お腹の張り(腹部膨満感)、腹痛、下痢、便秘などの症状が誘発されやすくなると考えられています。(参考:お腹の張りを楽にするガス抜きの方法とポーズ

低FODMAP食事法の目的と注意点

医学的には、低FODMAP食の有効性は海外を中心に多くの無作為比較試験(ランダム化比較試験)で示されており、一般の食事に比べてIBS症状を軽減することが期待できます [IBS診療ガイドライン, CQ 3-1]。

しかし、日本のIBS患者さんにおける低FODMAP食の受容性や有効性については、さらなる検討が必要であるとされています [IBS診療ガイドライン, CQ 3-1]。また、低FODMAP食事法は、FODMAPsの摂取を一時的に制限することで症状の改善を図るためのもので、永続的な食事制限ではありません。症状が落ち着いた後、個々のFODMAPsを少量ずつ再導入し、自分に合った量を見つける「再導入期」、そして「個別化期」というステップを踏むことが重要です。(参考:【初心者向け】低FODMAP(フォドマップ)食事法とは?やり方を3ステップで解説

今回のリストについてのご注意

今回ご紹介する「高FODMAP食品」「低FODMAP食品」の具体的なリストは、FODMAPsの概念と高FODMAP食品の例(小麦、タマネギ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつなど)が「IBS診療ガイドライン」に記載されています [IBS診療ガイドライン, CQ 3-1]。しかし、低FODMAP食品の具体的な例や、高FODMAP食品の包括的なリストは、これらのガイドラインには詳細に示されていません。

そのため、以下のリストは「IBS診療ガイドライン」で言及された内容に加え、低FODMAP食事療法に関する一般的な情報源に基づき、私自身の消化器専門医としての知識と経験を基に作成したものです。個人の体質やアレルギーの有無によって反応は異なりますので、あくまで参考としてご活用いただき、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることを強くお勧めします。

【高FODMAP食品リスト】(避けるべきもの)

IBSの症状を誘発しやすいとされる高FODMAP食品は、腸内でガスを発生させたり、水分を引き込んだりしやすい特徴があります。(参考:IBSの人が避けるべき食べ物・飲み物ワースト5) 以下の食品は、一時的に摂取を控えることを検討しましょう。

フルーツ

  • おすすめ理由:これらはフルクタンやポリオールを多く含み、腸内で発酵しやすい特性があります。
  • 注意点:乾燥フルーツも高FODMAPです。フルーツの量や種類によっては低FODMAPの場合もあるため、少量から試すことが重要です。
  • 主な例:リンゴ、マンゴー、スイカ、チェリー、桃、梨、柿、プラム、ドライフルーツ

野菜

  • おすすめ理由:特にタマネギとニンニクは多くの料理に使われますが、フルクタンが非常に豊富です。
  • 注意点:調理法によってはFODMAP量が減ることもありますが、まずは避けるのが基本です。
  • 主な例:タマネギ、ニンニク、アスパラガス、カリフラワー、キノコ類(マッシュルームなど)、ごぼう、ネギ(白い部分)

穀物

  • おすすめ理由:小麦製品はフルクタンを多く含みます。日本の食生活に深く根ざしているため、代替品を見つけることが重要です。
  • 注意点:グルテンフリー食品でも、FODMAPsが含まれる場合があります。成分表示を確認しましょう。(参考:「グルテンフリー」はIBSに効果がある?小麦との付き合い方
  • 主な例:小麦(パン、パスタ、うどん、ラーメン、お菓子類)、ライ麦、大麦

乳製品

  • おすすめ理由:乳糖(ラクトース)を多く含み、乳糖不耐症(にゅうとうふたいしょう)のIBS患者さんでは症状を誘発します [IBS診療ガイドライン, CQ 3-1]。
  • 注意点:乳糖フリー製品や、熟成されたハードチーズ(チェダー、パルミジャーノなど)は低FODMAPです。(参考:プロバイオティクスはIBSの救世主?正しいヨーグルトやサプリの選び方
  • 主な例:牛乳、ヨーグルト、ソフトチーズ(カッテージチーズ、リコッタチーズなど)、アイスクリーム

豆類

  • おすすめ理由:オリゴ糖を多く含み、ガスを発生させやすいです。
  • 注意点:水煮缶詰の豆は、水に溶け出すFODMAPが減るため、少量であれば食べられる場合があります。
  • 主な例:ひよこ豆、レンズ豆、大豆、納豆、豆腐(種類による)

甘味料

  • おすすめ理由:はちみつはフルクトース、キシリトールなどの糖アルコールはポリオールを多く含みます。
  • 注意点:人工甘味料の中にもFODMAPsが含まれるものがあります。
  • 主な例:はちみつ、アガベシロップ、コーンシロップ、キシリトール、ソルビトール、マルチトール

【低FODMAP食品リスト】(安心して食べられるもの)

低FODMAP食事法では、避けるべき食品がある一方で、代わりに多くの食品を楽しむことができます。以下の食品を積極的に取り入れてみましょう。

https://reliecho.com/easy-low-fodmap-recipes

フルーツ

  • おすすめ理由:FODMAPsの含有量が少ないため、IBS症状を誘発しにくいとされています。
  • 注意点:熟したバナナはFODMAP量が増えることがあります。適量を心がけましょう。
  • 主な例:バナナ(熟していないもの)、ブルーベリー、イチゴ、オレンジ、ブドウ、メロン(一部)、キウイ、レモン

野菜

  • おすすめ理由:幅広い種類の野菜が低FODMAPで、食物繊維やビタミンを補給できます。
  • 注意点:ニンニクやタマネギのような風味を加えたい場合は、FODMAPsが溶け出さないオイル漬けや、ハーブ、スパイスを活用しましょう。
  • 主な例:トマト、キュウリ、レタス、ジャガイモ、人参、ピーマン、ナス、ほうれん草、カボチャ、大根、ネギ(緑色の部分)

穀物

  • おすすめ理由:小麦粉の代替として利用でき、パンやパスタなども米粉製品などで楽しめます。
  • 注意点:オートミールはグルテンフリー表示があるものを選びましょう。
  • 主な例:米(白米、玄米)、米粉、オートミール(グルテンフリー表示のもの)、キヌア、そば(10割)、コーンスターチ

乳製品

  • おすすめ理由:乳糖を避けることで、乳製品による不調を予防できます。
  • 注意点:豆乳は製造方法によりFODMAP量が異なります。分離タンパク質から作られたものを選びましょう。
  • 主な例:乳糖フリー牛乳、ハードチーズ(チェダー、パルミジャーノなど)、アーモンドミルク、ライスミルク

肉・魚・卵

  • おすすめ理由:FODMAPsをほとんど含まないため、安心して食べられるタンパク源です。
  • 注意点:加工肉やソーセージなどは、高FODMAPな添加物が含まれることがあるため、成分表示を確認しましょう。
  • 主な例:鶏肉、牛肉、豚肉、白身魚、鮭、マグロ、卵

その他

  • おすすめ理由:これらの甘味料や油は低FODMAPであり、料理の幅を広げることができます。
  • 注意点:多量の摂取は、FODMAPsとは別の理由で症状を誘発する可能性があるので、適量を守りましょう。
  • 主な例:メープルシロップ、砂糖(グラニュー糖)、ピーナッツバター、オリーブオイル、ごま油

【補足】リストを活用するための注意点

私の臨床経験上、FODMAP食はすべての方に当てはまるわけではありませんが、試してみる価値のある選択肢の一つです。症状の改善が見られない場合は、別の原因や他の治療法を検討する必要があります。

個人の耐性を知る

低FODMAP食事法は、FODMAPsの摂取量を完全にゼロにするものではなく、症状を誘発しない「個人の耐容量」を見つけることが目標です。排除期で症状が改善したら、再導入期で一つずつ食品を試し、どのFODMAPsが、どのくらいの量で症状を引き起こすのかを把握しましょう。

専門家との相談

食事療法は自己判断で行わず、必ず消化器専門医や管理栄養士と相談しながら進めてください。特に、栄養バランスの偏りや、不必要な食品制限を避けるためにも、専門的なアドバイスが不可欠です。(参考:良いお医者さん・クリニックの見分け方 5つのチェックポイント

複合的な治療

IBSやFDの治療は、食事療法だけでなく、消化管運動機能調節薬やプロバイオティクス、漢方薬、抗コリン薬、5-HT3拮抗薬(IBS-D)、粘膜上皮機能変容薬(IBS-C)、抗うつ薬、抗不安薬、心理療法など、様々なアプローチを組み合わせることで、より効果が期待できます [IBS診療ガイドライン, 治療全般; 日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)(以下「FD診療ガイドライン」), 治療全般]。(参考:IBSで処方される代表的な薬の種類と効果、副作用まとめ) 食生活の改善やストレス管理といった生活習慣の見直しも非常に重要です [IBS診療ガイドライン, CQ 3-2; FD診療ガイドライン, CQ 4-1]。(参考:【図解】今日からできるストレスコーピング実践テクニック10選

まとめ

今回の記事では、お腹の不調に悩む方のために、低FODMAP食事法の具体的な食品リストを消化器専門医の視点からご紹介しました。

  • FODMAPsは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい短鎖炭水化物の総称です。
  • IBS患者さんでは、これらの摂取がガス発生や水分貯留を引き起こし、腹痛や便通異常の原因となることがあります。
  • 低FODMAP食事法は、症状緩和に有効なセルフケアの一つとして海外を中心に推奨されています。
  • 高FODMAP食品は一時的に避け、低FODMAP食品を積極的に取り入れながら、ご自身の「耐容量」を見つけることが重要です。
  • 本記事のリストは一般的な情報に基づいているため、最終的には専門家のアドバイスを受け、個々の体質に合わせた食事調整を行うようにしましょう。

お腹の不調は、日々の生活の質(QOL)を大きく低下させます [IBS診療ガイドライン, BQ 4-1; FD診療ガイドライン, BQ 1-7]。しかし、正しい知識と適切な治療によって、症状はきっと改善できます。この情報が、あなたの健康的な毎日を取り戻す一助となれば幸いです。

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