基本と原因

ストレスでお腹が痛くなる本当の理由とは?脳と腸の深い関係「脳腸相関」を解説

お腹の不調にお悩みのあなたへ。消化器内科医として、今回は特に「ストレスでお腹が痛くなる」という多くの方が抱える疑問について、その本当の理由を科学的根拠に基づき、分かりやすく解説していきます。

多くの方が、ストレスを感じるとお腹の調子が悪くなる経験をお持ちですよね。もしかしたら「気のせいかな」「精神的なものだから仕方ない」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは決して気のせいではありません。私たちの体には、脳と腸が密接に連携し合う「脳腸相関」という仕組みがあり、ストレスはこの深い関係に大きく影響を及ぼします。この記事を読み終える頃には、なぜストレスでお腹が痛くなるのか、そのメカニズムを根本から理解でき、明日からできる対策も見えてくるでしょう。

【結論】ストレスによる腹痛は「脳腸相関」が深く関わっています

なぜストレスでお腹が痛くなるのか。その答えは、まさに「脳腸相関」という、脳と腸が相互に影響し合うメカミズムが深く関わっているからです。

特に、過敏性腸症候群(IBS)は、ストレスと消化器症状の悪化の間に強い相関があることが医学的に証明されており、「機能性消化管疾患」の代表的な疾患として知られています。

日本人の全人口の2.2%がIBSを占めるとの報告もあり、消化器内科を受診する患者さんの約30%がIBSと診断されるほど、社会的な関心も高まっています。

(ご自身の症状がIBSにあてはまるか気になる方は、【医師監修】IBSセルフチェック|下痢・便秘・混合型のタイプを診断も参考にしてみてください。)

また、胃もたれやみぞおちの痛みを伴う機能性ディスペプシア(FD)も、ストレスや不安といった心理的要因が深く関係していることがわかっています。


【原因の深掘り】「脳腸相関」とストレスのメカニズム

では、この「脳腸相関」とは具体的にどのような仕組みで、ストレスがどのように腸に影響を及ぼすのでしょうか。

「脳腸相関」とは、脳と消化管が機能的に密接に関連している状態を指します。私たちの脳は、精神的なストレスを感じると、その情報を腸に伝達します。そして腸も、その状態を脳にフィードバックし、相互に影響し合っているのです。

ストレスがIBSの病態にどのように関与するか、具体的に見ていきましょう。

  • 消化器症状の悪化との関連
    IBSの患者さんでは、健常者と比較して、ストレスを感じた時に消化器症状が悪化する相関が高いことが示されています。私の臨床経験上、多くの患者さんが「大事な会議の前にお腹が痛くなる」「旅行に行くと必ず便秘になる」といった経験を語られますが、これはまさにストレスが症状に直結している証拠と言えるでしょう。
  • 消化管の運動異常を引き起こす
    心理社会的ストレスが加わると、大腸の運動が亢進することが研究で明らかになっています。これにより、お腹の痛みや、下痢、便秘といった便通異常が引き起こされやすくなります。
  • 中枢神経系の感受性亢進
    ストレス負荷時、IBS患者さんの脳波は健常者よりも低振幅速波化を示し、これは中枢神経の興奮感受性が高まっていることを反映しています。つまり、脳が過敏になり、消化管からの刺激をより強く感じ取ってしまう状態です。
  • 内臓知覚過敏を引き起こす脳機能異常
    IBS患者さんでは、消化管への刺激に対する脳の中枢反応が強くなることが分かっています。特に、扁桃体(感情や記憶に関わる部位)、前帯状回、島(感覚や感情に関わる部位)といった、ストレス応答を司る部位の活動が過剰になることが報告されています。
    また、IBS患者さんは、状況の急な変化に適応することが難しい傾向があり、右背外側前頭前野(情動制御に関わる部位)の活性化が健常者よりも低いことが示唆されています。このような脳の機能異常が、内臓の過敏さ(内臓知覚過敏)に関与していると考えられます。
  • 腸内環境の変化も影響
    IBSの病態には、腸内細菌の異常、粘膜透過性の亢進(腸のバリア機能の低下)、粘膜の微小な炎症も関与しており、これらが神経を介して脳の中枢機能に影響を及ぼすと考えられています。
    (関連:プロバイオティクスはIBSの救世主?正しいヨーグルトやサプリの選び方
    特に、感染性腸炎にかかった後にIBSを発症するケース(感染性腸炎後IBS)では、女性、若年、そして急性胃腸炎の前後における心理的問題がリスク因子となることが示されています。
  • 神経伝達物質や内分泌物質の関与
    セロトニンやコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)といった神経伝達物質や内分泌物質も、脳腸相関を介してIBSの病態に深く関わっています。例えば、セロトニンの量が不足すると、内臓知覚が過敏になったり、不安が誘発されたりすることが報告されています。

【体への影響】脳腸相関の乱れが引き起こすこと

このような脳腸相関の乱れやストレスは、具体的なお腹の不調として、私たちの体に様々な影響を及ぼします。

腹痛と便通異常

ストレスによって消化管運動が過剰になったり、逆に低下したりすることで、腹痛、下痢、便秘といった症状が現れます。

IBSは、便の状態で4つのタイプ(便秘型、下痢型、混合型、分類不能型)に分けられますが、どのタイプもストレスによって症状が悪化する可能性があります。

内臓知覚過敏の悪化

ストレスは、腸が少しの刺激にも過敏に反応してしまう「内臓知覚過敏」を悪化させます。これにより、通常の刺激でも強い痛みや不快感として感じられるようになるのです。

精神症状との悪循環

IBSやFDの患者さんには、うつや不安といった心理的異常を合併するケースが多いことが報告されています。これらの精神症状は、IBSが重症化するにつれて、より病態への関与度が増す傾向にあります。

また、睡眠障害もIBSやFDと関連しており、お腹の不調が睡眠の質を低下させ、それがさらにストレスとなり、症状を悪化させるという悪循環に陥ることもあります。多くの患者さんが誤解されていますが、お腹の不調と心の状態は密接に絡み合っているのです。


【明日からできること】セルフケアと専門家への相談

ストレスが引き起こすお腹の不調のメカニズムを理解した上で、明日からできる簡単なセルフケアや考え方をご紹介します。

1. ストレスマネジメントの実践

専門的な心理療法(認知行動療法やリラクセーションなど)がIBSの症状改善に有用であることが示されていますが、まずはご自身でできる簡単なストレス対処法(コーピング)を取り入れてみましょう。

例えば、5分でできる深呼吸や瞑想、アロマテラピーなど、リラックスできる時間を作ることを意識してみてください。簡易精神療法も、ストレス対処行動に助言を与えることで、症状改善に繋がる可能性があります。

2. 食事と生活習慣の改善

消化器内科医として、まずお勧めしたいのは、食事内容の見直しです。

  • 避けるべき食品
    脂質、カフェイン類、香辛料を多く含む食品は、IBS症状を誘発・悪化させる可能性があるため、摂取を控えることをお勧めします。
  • 乳製品の確認
    乳糖不耐症の方は、ミルクや乳製品の摂取で下痢が誘発されることがありますので、乳糖制限食を試すことも有効です。これはプロテインを選ぶ際にも関わってきます。
  • FODMAP(フォドマップ)
    特定の炭水化物であるFODMAP(フォドマップ)を多く含む食品を避けることで、症状が和らぐ可能性があります。
  • 適度な運動
    適度な運動はIBS症状を改善することが示されており、セルフケアの一つとして有効です。ウォーキングやヨガなど、無理なく続けられる運動を取り入れてみましょう。
  • 生活習慣
    喫煙や過度な飲酒、睡眠の質の改善も、IBS症状に直接的な明確なエビデンスはまだ不十分なものの、全身の健康には不可欠ですので、意識して取り組むことが大切です。

3. 良好な患者-医師関係の構築

お腹の不調で医療機関を受診する際、信頼できる医師との良好な関係を築くことは、あなたの不安を軽減し、治療効果にも繋がる非常に重要な要素です。気になる症状は遠慮なく伝え、納得できるまで質問してみてください。

4. 専門医への相談をためらわない

セルフケアを試しても症状が改善しない場合や、日常生活に支障をきたすほど症状が重い場合、また、うつ病や不安障害といった精神的な問題が強く関与していると感じる場合は、ためらわずに消化器専門医や心療内科を受診することを強くお勧めします。

特に幻覚・妄想・パーソナリティ障害・軽躁症状・自殺の危険が判明した場合は、速やかに精神科に紹介することが必要です。専門家があなたの病態を正確に診断し、薬物療法や専門的な心理療法など、あなたに合った治療法を提案してくれます。

あわせて読みたい(ブログカード推奨)

ストレスによる腹痛の原因が「脳腸相関」にあると知って、「じゃあ、自分の症状はIBSなのかな?」と気になった方も多いかもしれません。
まずはご自身の症状のタイプを知ることが、対策の第一歩になります。以下の記事でセルフチェックをしてみてください。


【まとめ】ストレス腹痛は「気のせい」ではありません

ストレスと腹痛の深い関係、「脳腸相関」についてご理解いただけたでしょうか。

  • ストレスは脳と腸の連携を乱し、腹痛や便通異常を引き起こす主要な要因の一つです。
  • IBSやFDは、この脳腸相関の乱れによって生じる機能性消化管疾患であり、決して気のせいではありません。
  • ストレスは消化管運動の亢進や内臓知覚過敏を引き起こし、症状を悪化させます。
  • セルフケアとして、ストレスマネジメント、食事の見直し、適度な運動が有効です。
  • 症状が続く場合は、専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが何よりも大切です。

あなたのつらいお腹の症状が、脳と腸の深い関係を理解することで少しでも和らぎ、前向きな気持ちで過ごせるようになることを心から願っています。

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